小説家、吉村昭さん著”三陸海岸大津波”では、三陸を襲った明治29年、昭和8年、チリ地震の大津波が起きた際の前兆や被害、救援の様子を体験者の生々しい証言や挿絵でリアルに描かれています。巨大なエネルギーを秘めた海水が海岸を呑み込んでいく様子は神話に出て来るような世界で本当にこんなことが起こりえるのか...と想像しただけでもぞっとする光景です。
明治29年の時も昭和8年も津波襲来の前には大漁、井戸水の渇水、怪火、大砲のような砲撃音など共通した前兆があり、今回の地震でも似たようなことがあったのではないか、何故同じことが繰り返されるのか。。本書に締めくくられている、前述2つの津波を経験された古老の”津波は、時世が変わってもなくならない、必ず今後も襲ってくる。しかし、今の人たちはいろいろな方法で十分軽快しているから、死ぬ人はめったにいないと思う”という言葉が今となっては切なく感じられます。また、著者の”海は大自然の常として、人間を豊にする反面、容赦なく死をも強いる”という言葉が重い。
本書を読むまで、津波が来たら流されるような場所に何故なお生活をしている人がいるのだろう、と思ってましたが、津波が来るからといって生活基軸となっている海からそう簡単に離れられない事情や津波の際、逃げようにも動けない事情を持った方々もいて、これからもその部分は変えられないのかと思うと複雑な気持ちになりました。
自然現象である地震、津波はこれからも三陸に限らず、日本を果てしなく襲い続けるということが焼き付けられた本書。どれだけ文明が進んだとしても自然現象に挑めるものではなく、それと付き合うライフスタイルへの転換が求められているのだろうと感じる今日この頃です。